2022年11月、約3年ぶりに現地開催されたRubyWorld Conferenceにて、Rubyの生みの親であるまつもとゆきひろ氏(通称Matz)とメドピア VPoE平川とで対談を行いました。
まつもと氏がメドピアの技術顧問を引き受けたのはちょうど3年前のRubyWorld Conference。現在に至るまで事業や組織に大きな変化もあったメドピアに対し、まつもと氏が寄せている期待について伺いました。
技術顧問就任から約3年。まつもと氏とメドピアの関わり
――本日はよろしくお願いいたします。お二人がじっくりお話されるのは2019年のRubyWorld Conference以来だそうですね。
まつもと:ちょうど前回(2019年)のRubyWorld Conferenceで、技術顧問のお話をいただきましたね。
平川:はい、前CTOの福村とともに伺いましたが、私にとってまつもとさんと対面でしっかりお話するのはそのときが初めてで、念願が叶った瞬間でした。
まつもとゆきひろ氏がメドピアの技術顧問に就任された当時の対談記事
――2019年の11月に技術顧問を引き受けていただけるご返答をいただき、2020年の1月に就任。そこから3年近くが経ちますね。
平川:就任していただいた時がちょうどコロナ禍に突入、というタイミングでした。イベントの場で直接お会いしづらくなるような状況の変化は予測していませんでしたが、2019年に技術顧問の相談をさせていただいて本当に良かったです。オンライン中心になったので、技術顧問としてどのように関わっていただくかという新たな悩みどころもありましたが、まつもとさんにはオンラインでも柔軟にコミュニケーションを取っていただいて、今に至ります。
――技術顧問として、どのようにメドピアと関わりを持っていただいていますか?
平川:主には、「Matzオンライン会議」という、まつもとさんとのオンライン会議を社内で毎月実施しています。まつもとさんに聴きたい話題をピックアップして、直接質問する機会をいただいています。「Matzオンライン会議」は毎回、Rubyを使うエンジニア社員のうち6割くらいは集まっていて盛況です。
まつもと:大体Rubyの中身に関する話が多いですかね。具体的にはRubyの誕生秘話だとか、Rubyソースコード解説、といった例です。最近は動的型付け言語と大規模開発について話をしたりもしました。
平川:「まつもとさんが普段使っているPCのスペックやツール、周辺設備について聞きたい」という回もありましたが、それも面白かったです。
まつもと:エンジニアは自分の開発環境や道具にこだわる人も多いですからね。中にはキーボードを自作するような人もいますし。
平川:弊社でもキーボードを自作する人が出てきました(笑)。
まつもと:僕は結局、自分の作ったキーボードを気に入らず、普通のキーボードに戻っているんですけど…(笑)。
――約3年の間、メドピアにも様々な変化があったかと思います。メドピアに対する現在の印象や、特徴など感じられるところはありますか?
まつもと:そうですね、まず社員数が増え、組織規模がスピーディーに拡大している印象は持っていました。プロジェクト単位でも新しいプロジェクトをどんどん出しているというのは伝え聞いています。私が技術顧問として入ってからも事業が成長や発展を続けているのは嬉しいことですね。
平川:仰る通り、エンジニアの数はMatzさんが顧問に就任された時期から大幅に増えました!2019年当時のサーバーサイドエンジニアは30人弱でしたが、現在は50人を超えています。
まつもと:あと、「Matzオンライン会議」を実施していて思いますが、テーマを持って学びたいと思っている方が多いですよね。これは他社とは違うメドピアらしい特徴なのかもしれません。明確なテーマのもとで質問をいただくので、人数規模は大きくなっているようですが、まとまりがあるなぁ、というか。
平川:やはり、Matzさんとの会話のチャンスは、技術顧問などで関わりがある会社だからこそ得られる貴重な機会なので、エンジニアは意気込んで質問を用意していますよ。
まつもと氏の思う「どんな組織にも存在するべきもの」
――2022年7月14日に、福村がCTOを退任し、平川がVPoEに就任しました。
同時に、技術導入や開発の機動力をより高めるため、組織の新体制として技術領域別の意思決定を司る「テックリーダー体制」を始動させました。
始動からまだ間もない体制ではありますが、組織の在り方について何かアドバイスいただけることがあればお願いします。
まつもと:組織体制というのは、企業によって最適解が違うので、あんまり正解がないと思うんです。Rubyのチームの場合はこうやると比較的うまくいくことが多かった…みたいな各々の事例はあります。でもそれがそのままメドピアのチームに適用可能かというと、そうとも限らないのが難しいところです。
でも、「ゴールやビジョンの明確化」はどんな組織においても必要不可欠ではないかと思います。Rubyのようなオープンソースプロジェクトの場合を例に挙げても、とても重要なんですよね。
平川:なるほど。
まつもと:例に挙げたオープンソースプロジェクトのケースですと、給与によるコントロールがないわけですよ。自主的に参加しても報酬はないですし、業務命令といった形式もとれないので、興味がないとか、やりたくない場合であればメンバーのモチベーションは上がらず、離脱することも簡単にできてしまう。
そういったプロジェクトとは異なりますが、メドピアの場合は「医師を支援し、患者さんを救う」「集合知により医療を再発明する」といったミッションとビジョンを強く持っているのは組織として非常に強いと思います。
平川:それは確かに、全社員が入社する前にしっかり社長からも伝えられています。
まつもと:あとは具体的なところで言えば、プロダクトのビジョンがみんなに伝わるとよりモチベーションが上がる傾向があると思います。それを「テックリーダー」というポジションに置き換えると、組織の中にあって、技術のビジョンを指し示すロールモデルとなります。それ自体が組織の士気を上げていくという意味では効果的だと思いますね。
平川:確かに...!弊社の技術分野においてのミッションや、技術領域別のイシューは定めていますが、テックリーダーのあり方、すなわち技術の意思決定におけるあり方やビジョンも見せられると良いですよね。
「Rubyが強い会社」の第一想起に――メドピアは近づけているか
平川:サーバーサイドにおいては、Rubyを使い続けて事業を発展させ、「Rubyに強い会社」の第一想起になるという目標を1つを持っています。
まつもと:そうですね、それも1つのビジョンとして良いものだと思います!
――技術顧問になられた当時と今とで、メドピアはRubyに強い会社へと近づいてきていますでしょうか?何か変化として感じられていることがあれば教えてください。
まつもと:うーん。最初の頃からすごく熱心に活動されていましたからね。例えばイベントスポンサーもそうですし。技術顧問の話をいただいたのもそうですし。とても真面目に学ぼうとする姿勢が素敵だと思っています。
そこから先、どうやって差別化するかという意味では、なかなか難しいところではありますよね。メドピアがRubyをファーストにして使っておられるのは確かですが、他社も同じくらい研鑽されている。
平川:そうですね。こういった技術カンファレンスでいただくスポンサーセッションの機会も有効活用したいですが、メンバーがカンファレンスセッションにも率先してアウトプットできるようにする、というのも伸びしろの一つと考えています。
まつもと:良いと思います。自分の会社で開発したものに対しての技術発表でもいいかもしれませんし、あと、個人で発表に値するようなプロジェクトがあればそれでも良いと思います。つまるところ、Rubyコミュニティに対するプレゼンスの高い人が社員の中から出てくると、 メドピアはRubyや、ソフトウェア開発そのものに対して「真摯である」といった魅力度を高め、認知を獲得できると思います。
――平川さんの中ではRubyコミュニティへの貢献度や、プレゼンスを高めるという方向性に関してどう考えていますか?
平川:積極的に高めていきたい思いはあります。現在の課題は「育成」ですね。そういったエンジニアを育てられる環境や人員体制を整えることが、今、もっとも地道に取り組むべき課題だと考えています。
まつもと:難しいところですよね。もちろん今日明日でどうこうっていうことではなく長期的な展望でもあり、本業とどれくらいバランスを取っていくかという議論もあるとは思います。ただ、例えば自分のところで使っているソースコードを、オープンにはせずともgemで切り出しておくというのはとてもいい訓練になると思うんです。
社内で使っているライブラリの中で、複数のプロジェクトで使えそうなものを自分で切り出しておくと、「これは社外でも使えるんじゃない?」と言えるものが出てきます。それをGitHubのプロジェクトにしていく―というのが、最初のステップとしてはありなのではないでしょうか。
平川:そうですね。社内gemは出てきているんですよね。あとは、細かいステップとして、実際に社員が書いたコードをまつもとさんにレビューしてもらう機会を持つことができるといいかもしれません。
まつもと:それもありですね。自分のソフトやプロダクトをその外に公開すると、やはり当人が技術的にとても伸びるんですよね。自分のプロジェクトをメンテナンスして、 育てていく活動のひとつとしてはとても成長しやすい取り組みだと思います。
まつもと氏が今後のメドピアに期待すること
――メドピアはこれからもRubyとともに事業を推進して参ります。今後のメドピアに対して期待することやメッセージをいただけますでしょうか。
まつもと:メドピアには、エンジニアにとっての魅力は多々あると思いますよ。
私がオンライン会議でサポートするのは月に1回なので、ほかにも魅力に感じてもらえる点はヒアリングして洗い出してみたりして、どんどん活かすといいのではないかなと思います。
たとえば、給料や制度のみならず、企業ビジョンや、OSS活動や勉強会の盛んさ、心理的安全性などに魅力を感じて入社する方もいると思います。
平川:それでいうと、RubyKaigiやRubyWorld Conferenceでメドピアを知って選考に応募していただく方が、毎年少なからずいらっしゃるので、どんどん発信していきたいと思います!
まつもと:私がお手伝いできることがあれば、今後ともぜひ。
平川:今後ともよろしくお願いいたします!
次の記事▶
coming soon…
記事一覧
メドピアグループでは一緒に働くエンジニアの仲間を募集しています。