2022年7月から始動したメドピアグループのVPoE+テックリーダー体制では、各技術領域を牽引するテックリーダーに5名が任命されました。彼らはメドピアの技術が目指す指標や課題として掲げているテックイシューにも向き合っています。
体制スタート初年度の1年間、テックリーダーがどのような活動をしてきたのか、メドピアの技術に対してどのようなインパクトをもたらしたのか、それぞれの領域を担うテックリーダー5名で座談会を行いました。後編ではSREチーム・リーダーの堀も加わり、テックイシューへ向き合ってきた初年度1年を振り返ります。
▼座談会参加メンバー
VPoE 兼 サーバーサイドテックリーダー 平川 弘通(@arihh)
シニアテックリーダー 笹谷 清隆(@KiyotakaSasaya)
セキュリティテックリーダー 侘美 怜(@reirei_As)
VPoE室 SREチーム・リーダー 堀 光雄
モバイルアプリテックリーダー 小林 雄一(@imk2o)
フロントエンドテックリーダー 小林 和弘(@kzhrk0430)
テックイシューの存在が、技術への攻めの姿勢を強固にした
▲2022年6月~2023年7月時点 初年度のテックイシュー
平川:前回はテックリーダー体制初年度の運用全体について振り返りました。今回は技術領域別のテックイシューについて振り返りたいと思います。まずはこの1年テックイシューに向き合って取り組んだ成果と思えるところを教えてください。
侘美:領域によって掲げたイシューは異なりますが、共通の成果として「技術への攻めの姿勢」が強くなったと思います。たとえば、僕たちは「保守に寄りすぎないようにしよう」という意識で、積極的に新しい技術・トレンドを取り込んできました。ARMベースのCPUを積極的に採用したり、可逆圧縮アルゴリズムのZstd(Zstandard)を導入したり、ブランチごとに検証環境を自動でつくる仕組みをブラッシュアップしたり、といった例です。
堀:SREという業務は基本「守り」に近いミッションが多いですが、技術活用の面ではとことん攻めたい。現状に甘んじず、より良い技術クオリティを探求し続ける「"SREらしさ"をゼロから作る」というテックイシューにもとづいた動きになっていたと思います。
平川:サーバーサイド領域でも「最新化の先駆けに」というテックイシューに対してはしっかり取り組めたと思います。RubyやRuby on Railsのバージョンアップを仕組み化して前衛的に進めることができたのはもちろん、RubyのJITコンパイラ「YJIT」を導入できたサービスがあることも大きな成果です。たとえば他社でも前例がほとんどない中でメンバーが積極的に進めてくれた取り組みで、このことをレポートしたテックブログも多くの人に読まれました。そして、VPoEと兼任している私からすると、メンバーのみなさんがそれらに自発的に取り組んでくれていることが素晴らしいと思っています。
小林和弘(以下、和弘):テックリーダーがトップダウン型で伝えることに頼らず、メンバーがそれぞれ積極的に最新技術をキャッチアップしようとしてくれているのは、メドピアらしいカルチャーですよね。
フロントエンド領域のテックイシューは「アーキテクチャのモダン化」と「ベストプラクティスへの探究心」です。私から「テックイシューに掲げているから」という文脈だけで推し進めていたわけではありませんが、新しい技術を積極的に取り入れる姿勢をもったメンバーが多く、自発的に進められたことは数多くありました。
「アーキテクチャのモダン化」で言うと、Nuxt3とVue3へのアップデートを各チームが主体的に進めたり、Yarnからpnpmへのパッケージマネージャーの移行を検討していたり、一部プロジェクトでビルドツールをwebpackからviteに移行したりしています。また、「ベストプラクティスへの探究心」においては、α版やβ版に先駆的にトライしています。実際にプロジェクトを見るとわかります。
平川:フロントエンド領域のみなさんの、新技術への感度の高さや推進力、とても心強いです。
持続的な事業成長を目指す、標準化への取組み
小林雄一(以下、雄一):もうひとつ、テックイシューを掲げたことで「知見やフローの共有・標準化」に着手できたことも大きな成果でした。モバイルアプリ領域では特に注力したポイントです。
モバイルアプリ領域として掲げたテックイシューのひとつは、「アプリプラットフォームの思想に寄り添う」。AppleとGoogleというプラットフォームの存在に特殊性のあるモバイルアプリならではのイシューです。プラットフォームの要件が変わった時などに、これまでは横軸で情報をシェアする仕組みがなかったため、それぞれのプロジェクトで個別に気づいて対応をしたり、全体での共有が直前になってしまうことが課題でした。しかし、今年度は週次mtgで新たな対応課題を共有したり、その進捗を管理シート上で可視化したりしたところ、相互にアクションを促しあう効果があり、全体を通して対応が早く進むようになりました。
平川:いいですね。
雄一:そして、「ユーザーの安心安全のために」というテックイシュー実現に向けては、SLO(Service Level Objective)を設定して迅速に対応するようにしました。そして、「事業を継続的に伸ばすエンジニアリング」というテックイシューに関しては、申請・リリースのワークフローを標準化、または一部自動化できたことが大きいです。リリースまでにもれなく準備ができるようになり、事業成長の足かせになるようなトラブルを未然に防げるようになりました。
笹谷:私も、雄一さんがうまく情報を展開して標準化を進めてくれたなと思っていました。アプリのプラットフォーム側からリジェクトされた時も、知見として共有していくことで資産になることをわかって動いているというか。
雄一:知見が共有されない組織は属人化が進んでしまいます。自分たちはチームとしてそれを避けたかったんですよね。
平川:他に、知見やフローの共有・標準化の観点で取り組んだ領域はありますか。
侘美:これまでSREで担っていたAWSの管理を、それぞれの事業部の開発チームに移譲したことが当てはまります。主に勉強会の開催、ドキュメントの整備、申請フローの整備を行い、「各開発チームがSREを実践できる風土」を目指しました。
堀:SREの本来の業務は、インフラの運用業務ではなく仕組みの提供ですから、SREの組織としてのあり方をまさにゼロから見直したアクションですよね。
侘美:AWSの管理を移譲したのは、エンジニアが増えてきた今、SREがすべて面倒を見るという状態が持続的ではないからなんです。会社が大きくなる中で「どういうチームになっていく必要があるのか」とメンバーがみんな意識して考えるようになったのは、テックイシューを掲げたからこそ得られた効果かもしれません。
雄一:たしかに。組織のあり方もそうですが、やるべきことが多くある中で何を優先するべきかの目線合わせにも、テックイシューは役立っていると思います。
技術面のアクションの指針にテックイシューを
平川:テックイシューに向き合ってきて、気づいた課題点はありますか。私は社外向けにもう少しテックイシューを認知してもらうように動きたかったですね。テックイシューを公開した当初から、社外のエンジニアの方が「メドピアが向き合っている技術課題」や「課題に対するアクション」に期待していました。一緒に取り組みたいと思ってくれる仲間が集まるという希望がありました。ですのでもっと積極的に発信する余地があったのではないかなと思うんです。
和弘:そうですね。フロントエンドはこの一年多くの採用候補者と出会ってきましたが、テックイシューについてもっと知ってもらえたらよかったです。
また、社内でももう少し浸透させられたら、より成果を生み出しやすい状態になっていたのではと思うところもあります。
笹谷:たしかにそうですが、一方で、どの領域でもこの1年のアクションそのものは結果的にテックイシューで求めていることにつながっているように思います。意識的に取り組んできたSREはもちろん素晴らしいですが、テックイシューは注視していなかったかもしれないフロントエンド領域でも、現場の課題解決や改善自体は大きく進められています。
平川:本当に、フロントエンドのモダン化には目を見張るものがあります。これもテックイシューの策定時に、しっかり意識合わせができたからかもしれません。
雄一:たしかに、昨年の検討時に一言一句、丁寧に作り上げたプロセスが、自然と結果につながるように活きているのかもしれませんね。モバイルアプリのテックイシューのひとつ「アプリプラットフォームの思想に寄り添う」も、最初の案は「アプリプラットフォームの思想に従う」でした。でも、プラットフォームに言われた通りのものづくりをしているわけではないから、しっくりこなくて。プラットフォームに接する自分たちやメドピアとしての主体性、スタンスがどうあるべきかというところまで立ち返って考えて、ワーディングを検討していました。
そういう意味で、テックイシューをまとめあげる中で、自分たちが大事にしていることをチームで見つめ直すことができ、今年の明確なアクションにつながったのかもしれません。
侘美:メドピアのエンジニア全員がテックイシューを意識している必要はないけど、テックリーダーである僕たちは少なくとも意識しながら細部のアクションへ落とし込むべきですよね。技術的な判断のプロセスにおいて、テックイシューを少しでも想起したり、指針にしておくことで、その領域の技術の意思決定もより確からしくなるはずです。
雄一:そうですね。この体制も2年目がスタートしましたから、あらためてそれぞれのテックイシューを腹落ちさせて、向き合っていきたいですね。
平川:その通り、テックイシューは中長期的な課題として掲げているので、そういったあり方が良いと思います。抽象度や難易度の高い目標もありますが、じっくり腰を据えて取り組んでいきましょう。
テックイシュー策定当時の回想にまで話が及んだ振り返り会。6名の会話にはテックイシューに真摯に向き合い、課題解決に取り組んだ1年間が詰まっていました。次の1年も、同じテックイシューに向き合いながら事業成長へと邁進します。
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